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大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)63号 判決

大阪市西淀川区佃三丁目二〇番二一号

原告

日新化成株式会社

右代表者代表取締役

大矢富一

右訴訟代理人弁護士

谷戸直久

大阪市西淀川区野里三丁目三番三号

被告

西淀川税務署長 稲山三郎

右指定代理人

阿多麻子

桑名義信

湯田昭児

的場俊雄

内藤元子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成四年六月二六日付でなした原告の法人税に係る更正のうち、別表1の各事業年度の確定申告欄記載の所得金額、納付すべき税額をそれぞれ超える部分及び重加算税の賦課決定(但し、加算税の額については、同表の異議決定欄のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分が取消された後のもの)並びに被告が平成四年六月二六日付でなした原告の法人臨時特別税に係る更正のうち、別表1の確定申告欄記載の課税標準法人税額、納付すべき税額をそれぞれ超える部分は、いずれもこれを取消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、化学品の卸売等を事業目的とする会社であり、その事業年度は七月一日から翌年六月三〇日までである。

2  原告は、平成元年六月末日を期末とする事業年度(以下「平成元年六月期分」という。)、平成二年六月末日を期末とする事業年度(以下「平成二年六月期分」という。)及び平成三年六月末日を期末とする事業年度(以下「平成三年六月期分」という。)につき、それぞれ、別表1の確定申告欄記載のとおり法人税の確定申告を行い、また、平成三年六月期分につき、別表1の確定申告欄記載のとおり法人臨時特別税の確定申告を行った。

3  被告は、右2の各確定申告に対して、平成四年六月二六日付で、別表1の更正及び賦課決定欄記載のとおり更正及び重加算税の賦課決定(以下「本件各更正等」という。)をした。

4  原告は、平成四年八月二六日、本件更正等に対して異議申立を行い、平成四年一一月二六日重加算税の賦課決定につき過少申告加算税相当額を超える部分を取消す旨の決定がなされた。

5  原告は、平成四年一二月二六日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、平成六年三月二三日棄却の裁決がなされ、右裁決決定正本はそのころ原告に送達された。

6  原告は、大阪府吹田市津雲台七丁目二〇番四二号所在、宅地、六〇一・六八平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)の所有名義を有し、平成元年六月期分、平成二年六月期分、平成三年六月期分について、本件土地に係る固定資産税額(以下「本件固定資産税」という。)を別表2のとおり吹田市に納付し、本件の法人税及び法人臨時特別税の申告に際し同額をそれぞれ納付した日の属する事業年度の損金の額に算入した。

二  原告の主張

本件各更正等は、いずれも本件固定資産税を損金と認めず、原告の所得を過大に認定した違法がある。

本件土地は原告の所有に属するものであるし、仮に、本件土地の所有権が原告に帰属しないとしても、次のとおり、本件固定資産税を損金に算入しないことは違法である。

1  すなわち、法人税法(以下「法」という。)二二条三項によれば、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額が内国法人の各事業年度の損金の額に算入すべき金額とされており、ここには賦課された租税公課が含まれるところ、同法三八条以下において租税公課のうち損金に算入できないものを定めており、ここに定めるもののみが損金に算入されない租税公課となるものである。

そして、地方税法三四三条一項によれば、固定資産税は、固定資産の登記名義人に賦課される税であるところ、法三八条以下に定める損金の額に算入しない租税公課には固定資産税は含まれないから、法二二条三項によって当然に損金の額に算入されるものである。

2  また、法一一条は、実質所得者課税の原則を定めたもので、「収益の帰属」に関してのみ規定されたものであることは文理上明らかであるから、同条を類推・拡張解釈して、損金である固定資産税に適用することは租税法律主義の原則に反する。

3  本件においては、本件土地の帰属に関して未解決の問題があり、原告が納付した本件固定資産税が被告のいう「立替費用」になることも確定していない。このような確定しない資産の計上を認めて本件固定資産税の損金算入を否定する本件更正等は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反するものとして法二二条四項に反する。

三  被告の主張

本件固定資産税は、次のとおり、原告の法人税の所得計算において損金とは認められないから、本件各更正等はいずれも適法である。

1  本件宅地の実質的な所有者は、原告ではなく、大阪観光株式会社(以下「大阪観光」という。)であって、原告は同土地の登記簿上の名義人に過ぎない。

2  そして、所得税及び法人税は、個人又は法人の担税力に着目する人税であるから、各人の実際の担税力に即応してこれを負担させることが租税法の基本理念である負担公平の原則に最もよく合致するものであるから、課税要件事実の認定にあたっても外観や形式に従ってではなく、実態や実質に従ってそれらを判断し認定しなければならない(実質課税の原則)のであり、所得税法一二条及び法一一条の各規定はこの原則を確認したものである。

3  法人税法上の「損金」とは法人が当該事業年度において、その事業に伴う財産関係を支配し、又は、事業遂行に伴う収益を獲得するために出捐した費用を指すものであり、この費用とは、法人がある年度において収益を上げるため出捐した価値の犠牲、すなわち法人が当該事業年度において、その事業に伴う財産関係を支配し、または、事業遂行に伴う収益を獲得するために出捐したコストをいうものと解される。したがって、固定資産税についても、それが当該法人が事業に伴う財産として固定資産を所有するための保有コストとして発生した費用であれば、法二二条三項二号により法人の所得計算上損金に算入されることになるが、当該法人の事業活動に使用していない第三者の所有する不動産に課された固定資産税が、当該法人の収益と対応する費用として認識されないことは明らかである。

4  そして、固定資産税は、不動産の資産価値に着目して不動産の所有という事実に担税力を認めて課す一種の財産税であるから、本来当該固定資産の真の所有者が負担すべきものであるが、地方税法では、賦課期日(毎年一月一日)現在における固定資産の所有者が納税義務者となると定めながら(地方税法三四三条一項、三五九条)、徴税の便宜に着目して、登記簿又は固定資産課税台帳に所有者として登記又は登録されている者を納税義務者と規定している(同法三四三条)。

したがって、固定資産税の納税義務があるか否かと、固定資産税を法人の損金に計上しうるか否かとは、全く別の次元の問題である。

なお、固定資産税は、徴税機関との関係では、登記簿上の名義人が納税義務を負うものではあるが、名義人と真の所有者との間では、公平の理念により真の所有者が最終的にこれを負担しなければならないものであるから、ある土地の所有者ではないにもかかわらず、登記簿上の名義人であるため固定資産税の納税義務を負担した者は、所有者に対して納付税額相当額の不当利得返還請求権を取得することになる。

5  本件においては、本件土地の真実の所有者が大阪観光である以上、本件固定資産税は、本来大阪観光の所有する固定資産税に対する保有コストとして、同社にとって最終的に負担すべきものであり、登記簿上の名義人に過ぎない原告が負担すべき理由は存しない。のみならず、原告と大阪観光との間では、本件土地に係る固定資産税は大阪観光が負担する旨の合意が存在し、昭和五六年度分から昭和五八年度分までの固定資産税は、大阪観光が納付していたのであるから、原告が吹田市に納付した本件固定資産税は原告の大阪観光に対する立替費用となり、原告の法人所得計算において損金の額に算入することはできない。

四  争点

1  本件土地の所有者は原告か大阪観光か。

2  本件土地の所有者が大阪観光である場合、本件固定資産税が原告の法人税の所得計算において損金と認められるか。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  乙第三ないし第五号証によれば、本件土地は昭和五五年八月七日に大阪府から原告に対して同年五月二三日付売買(買戻特約付)を原因として所有権移転登記手続が経由されていること、本件土地については、売主を大阪府、買主を原告、代金を七六四三万二五〇三円をする昭和五五年五月二三日付の売買契約書(千里中央サービスセンター用地売買契約書)が、右売買の代金について大阪府(企業局)から原告宛の領収証書が、それぞれ作成されていることが認められる。

2  また、乙第七号証の一によれば、大阪観光の代表取締役である石川昭二は、大阪国税局職員の質問に対して、本件土地は、大阪府企業局が事業者向けに分譲した用地で、大阪観光が自社名義に加え、グループ法人である原告などから名義を借用して分譲の抽選を申し込んだ結果、原告名義で申し込んだ分が当選したものであり、原告の名義を借りることについては事前に原告の了承を得ていること、本件宅地の取得資金七六四三万二五〇三円は、大阪観光が全額を負担したこと、本件宅地の取得のための大阪府との契約関係上の手続もすべて大阪観光が行ったこと、したがって、本件土地の所有者は大阪観光と認識している旨述べていることが認められる。

3  そして、乙第二号証、第六号証、第七号証の一及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 大阪観光においては、前記売買契約書及び領収証書並びに本件土地の登記済証を保管している。

(二) 本件土地に関して、昭和五五年六月二三日付(昭和五九年四月五日付の公証人による確定日付がある)で原告(前代表取締役石川義正)から大阪観光(前代表取締役石川荒一)に宛てられた念書が存在し、これによると、同土地は府企業局分譲用地として原告の名義で当選したが、原告は大阪観光に名義を貸しただけで、金銭の支払はすべて大阪観光がしたものであるから、真実の所有者は大阪観光であることに相違なく、大阪観光から所有権移転登記等のために原告の印鑑等を必要とする際はいつでも必要書類の交付、捺印等に応じる旨記載されている。

(三) 本件宅地は、大阪観光の確定した決算について土地勘定に計上されているが、原告の確定した決算においては、何ら計上されていない。

4  以上によれば、右2の供述は信用することができ、原告は本件土地の登記簿上の名義人に過ぎず、その所有者は大阪観光であることが認められる。

二  争点2について

そこで、原告の法人税の所得計算において、本件固定資産税を損金に算入することが認められるかを検討する。

1  法二二条一項によれば、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とされ、同条三項において、右損金の額に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、〈1〉当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(同項一号)、〈2〉右〈1〉のほか当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額(同項二号)、〈3〉当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(同項三号)と規定されている。そして、損金の額の計算のうち、租税公課については、右の「別段の定め」として、法三八条ないし四一条において損金の額に算入しない租税公課を列挙している。

2  ところで、法二二条三項の「損金」とは、資本等取引以外の取引で純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少をいうものであり、このうち同項一号の「売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」とは、収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価のうち、収益に直接かつ個別的に対応するものをいい、同項二号の「販売費、一般管理費その他の費用」とは、収益に個別的には対応はしないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価をいうものであって、いずれも事業の遂行上必要とされるものであることは明らかであり、同項三号の「損失」とは災害、盗難等通常の事業活動とは無関係な偶発的要因により発生する資産の減少をいうのである。

そして、法人の納付する租税公課については、確かに、通常は当該法人の純資産の減少の原因となる支出に当たり、また、法三八条ないし四一条によれば、固定資産税が法二二条の「別段の定め」の対象に含まれていないことも原告の主張するとおりではあるが、固定資産税としての出捐が法二二条三項の「損金」に当たるかについては、原告主張のような右事実があるからといって、直ちにこれを「損金」と認めることはできないのであって、これが「損金」に当たるかは、法二二条三項に規定されている「損金」の概念に該当するか否かにより決せられるべきものというべきである。

3  本件については、前記認定のとおり、原告は本件土地の所有者ではなく、乙第七号証の一によれば、本件土地は現在も更地のままで原告は何ら理由、管理していないこと、原告と大阪観光との間では、従来、吹田市から原告宛に送付されてきた納税通知書を原告が大阪観光に送付し、右納税通知書に基づいて大阪観光が吹田市に固定資産税を納税する旨の取決めがあり、昭和五六年度分から同五八年度分までの固定資産税は大阪観光が納付してきたものであること、昭和五九年度以降分の本件土地の固定資産税は原告が納付しているが、これは右取決めに反し納税通知書が原告から大阪観光に送付されなかったためであり、大阪観光としては、原告から請求があれば、原告に対してその納税分を支払わなければならないと考えていることが認められる。

4  ところで、地方税法においては、登記簿又は固定資産課税台帳に所有者として登記又は登録されている者を固定資産税の納税義務者と規定している(同法三四三条二項)が、固定資産税は、本来当該固定資産の真の所有者が負担すべきものであって(同法三四三条一項、三五九条参照)、納税義務者を登記簿等の名義人と定めたのは徴税の便宜によるものであるから、固定資産の名義人と真の所有者とが異なる場合、右名義人と真の所有者との間において名義人が固定資産税を最終的に負担することを相当とする特段の事情がない限り、公平の理念により最終的には真の所有者がこれを負担すべきものであり、名義人は真の所有者に対し、自己の納付した固定資産税相当額について不当利得返還請求権を取得するものと解される。

5  本件においては、原告は本件土地を所有するものではなく、同土地を何ら原告の事業に利用しているものともいえないから、本件固定資産税は原告の事業の遂行上必要な支出ということはできない。また、右の事実関係及び原告と大阪観光との間においては大阪観光が同土地にかかる固定資産税を負担する旨の合意があったことからすると、右固定資産税は最終的には大阪観光が負担すべきもので、原告は、大阪観光に対し、本件固定資産税相当額についての不当利得返還請求権を有するものというべきであるから、原告が本件固定資産税をその納付義務に基づいて納付したからといって、原告の所得計算において、純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少を来したものともいえない。したがって、原告の法人税の所得計算上、本件固定資産税を損金と認めることはできないというべきである。そして、現実にも、大阪観光が原告に対し右不当利得返還義務を履行した場合、これが同社が本件土地を所有することによる費用として同社の法人税の所得計算上損金に算入されるものであるし、原告から大阪観光に対する右不当利得返還請求権が回収不能となった場合には、そのことをもって損金処理することが可能であることからすれば、本件固定資産税を損金の額に算入しないからといって何ら不合理、不公平は認められない。

三  結論

右によれば、被告が本件各更正等において本件固定資産税を損金に算入しなかったことに違法はなく、他に本件更正等(平成四年一一月二六日の異議決定により一部取り消された後のもの)の違法の点は認められないから、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 加藤正男 裁判官 大島道代)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

〈省略〉

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